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福岡県における破産の振分基準について

~同時廃止か管財事件か~

振分基準

 

 破産手続開始申立事件について(法人事件及び債権者申立て事件を除く)、同時廃止として処理する事件と、管財事件として処理する事件との進行振り分けについて、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」(破産法216条1項)の認定判断の基準(振分基準)の目安として、福岡地方裁判所破産係より、破産レターとして振分基準が示されています。

 但し、あくまで基準であり、同書面内でも、「個々の裁判を拘束するものではないから、具体的事案に照らして相当でないと認められる場合には、これと異なった判断ができることは当然である」と記されていますので、一つの目安としてご参照ください。

 

 

第1 財産の価額による判断

1 破産手続開始決定時に、債務者(破産しようとする人)が有する次の7つの財産の項目ごとの合計額のいずれかが20万円以上である場合は、管財事件とする。

 

  • 預貯金及び代理人弁護士への預け金          

  • 保険契約解約返戻金                                        

  • 居住者用家屋以外の敷金等返還請求権      

  • 退職金債権の8分の1                                

  • 自動車                                                         

  • 家財道具その他の動産                                 

  • 債権、有価証券その他の財産権             

  

 

2 現金、預貯金及び代理人弁護士への預け金については、その合計額が一定額を超える場合には、管財事件とする。

上記の一定額は、標準的な世帯の一か月の必要生活費(33万円)を参考とする。

 

  

 

 

第2 事件の類型による判断

 次の5つに該当する場合には、破産手続開始申立ての段階で「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する」と認めることが類型的に困難であることなどから、管財事件とする。

 ただし、破産管財人による調査・換価を要しないことが破産手続開始申立て段階の資料のみから明らかである場合は、この限りではない。

 

1 法人代表者及び個人事業主型

 債務者が法人代表者の地位にあり、もしくは過去にその地位にあった場合、又は現に個人事業を営んでおり、若しくは過去に営んでいた場合

2 不動産型

 破産財団に不動産がある場合

3 資産調査型

 債務者の資産状況(資産の存否や価額及びその取得や処分の経緯等)や負債増大の経緯等が明らかでない場合

4 否認対象行為調査型

 否認権の行使の対象となる行為が存在する可能性がある場合

5 免責調査型

 免責の許否を判断するのに、管財人による免責不許可事由の有無又は裁量免責の可否についての調査を要する場合

 

  

 

 

第2 事件の類型についての説明

 第2の内、1~3についてはある程度、該当する事案の想像がつくことかと思いますが、4、5のケースは、どういった場合に該当するのか想像が難しいと思いますので、ご説明いたします。

 

 

4 否認対象行為調査型は、その名のとおり、否認権の対象となる行為について調査する場合であり、

「詐害行為否認」「偏頗行為否認」の2つに分けることができます。

 

Ⅰ 詐害行為(債権者を害する行為)は、破産法では、次のように類型化されています。

    ・一般的な詐害行為

    ・詐害的債務消滅行為

    ・無償行為

    ・相当な対価を得てした財産の処分行為

 

・一般的な詐害行為

 ここでいう「詐害行為」、つまり破産債権者を害する行為とは、破産者の財産を絶対的に減少させる行為をいい、財産の廉価売却などが典型です。次の2つの条件を満たす場合には、時期を問わず、財産の廉価売却などの効果が否認されます(破産法16011号)。

  • 破産者が詐害意思をもって破産債権者を害する行為をしたこと
  • その行為の当時、受益者が破産債権者を害することを知っていたこと

・詐害的債務消滅行為

 典型例は過大な代物弁済です。詐害的債務消滅行為は、上記の詐害行為と同様の枠組みで、否認権の対象か判断されています(破産法1602項)。

・無償行為

 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる(破産法1603項)。

 無償行為の場合には、詐害行為や詐害的債務消滅行為のケースなどと異なり、受益者の内心状態は問題とされません。

・相当な対価を得てした財産の処分行為

 財産を処分するときに相当の対価を受け取っていても、破産法1611項の条件を満たす場合には、詐害行為となります。

破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。(破産法1611項)

 

詐害行為で否認されないために注意すべきポイントは、次の3つです。

  • 破産債権者を害する意思で財産を処分してはならない
  • 支払停止状態に陥ってしまったならば自分の財産が減少するような取引をしない
  • 借金を返済できないかも知れない状況で他人に無償で財産を渡さない

 

Ⅱ 偏頗行為は、原則として、次の3つの条件を満たすものです(破産法162条1項)。

  • 特定の債権者への返済等であること
  • 支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の行為であること
  • 債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたこと

 

 

 

 

 

 5 免責調査型は、破産法252条で規定されている「借金を免責にできない事由」(免責不許可事由)にあたる場合をいいます。

 例えば、自己破産前に財産をこっそり隠したり、親族に無償で譲渡したり、他人から自己破産することを隠してお金を借りたり、過度なギャンブルや浪費で借金を作った場合などは、免責不許可事由にあたり、

「免責不許可事由は悪質なものか」「破産者は誠実な人柄で手続きに協力的か」「今はしっかり反省して節約した生活をしているか」などを調査する必要があり、破産管財人が調査のため選任されます。

 但し、裁判所の運用上は、免責不許可事由があっても、裁判官の判断(裁量)で免責になる場合があります(管財事件となり、その後の管財人の調査に対して誠実に協力することによって、裁量免責といって、例外的に債務が免除されます)。

 また、過去7年以内に免責許可を受けたことがある場合には例外なく管財事件に振り分けられます

 

 

 

 

 

※預貯金については、申立て直前の給与・年金を原資とする普通預金を除きます。

※自動車については、初度登録から5年を経過した自動車については、なお価値があることが類型的にうかがわれるもの(ハイブリッド車、電気自動車、外国製自動車、排気量2500ccを超えるものなど)を除き、価額を0円とみなすことができる。なお、プラグインハイブリッド車や電池自動車等の例示されていないエコカーも該当すると考えられます。

※不動産については、申立書には、不動産の固定資産課税評価額や被担保債権額を記載するようにして、査定書についても被担保債権の残債務額が固定資産評価額の1.3倍未満である場合には、破産申し立てと同時につけることで、同時廃止として処理する場合も当然ありうるとしています。

 

 

 

破産法 第216条 第1項

裁判所は,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは,破産手続開始の決定と同時に,破産手続廃止の決定をしなければならない。