自己破産をすると高額な財産は換価処分されてしまいますので、自宅があるときにはこれを失ってしまう可能性があります。しかし債務整理には自己破産以外にも任意整理や個人再生があり、これらの手続であれば財産を残しつつ債務の負担を減らしていくことも可能です。
ただ、住宅ローンが残っているときは要注意です。この場合は家を失うリスクが高くなるため、債務整理のやり方にも工夫が必要となります。
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住宅ローンを残したまま債務整理すると家を失う危険がある
消費者金融などから借入をしていた場合、約束通りに返済ができないときは相手方から督促を受けたり給与の差し押さえを受けたりすることがあります。給与を差し押さえられると困るのは確かですが、その時点では自宅に住み続けることができますし、いきなり差し押さえられるわけでもありません。
一方、家を建てたり購入したりするために住宅ローンを組んでいるとき、この住宅ローンについて返済が滞ると「抵当権」が行使されて家が売られてしまうリスクが高くなります。住宅ローンを組むときは通常、家に対してこの抵当権が設定されます。抵当権が付いていることにより、債権者である金融機関は手早く債権を回収することができるのです。
債務整理をするときもこのリスクが付いて回ります。債務の減額や支払いの猶予などに成功したとしても、家を失うことになるかもしれません。
債務整理後にローンを組むのも難しい
いったん債務整理をすると、しばらくの間再びローンを組むのは難しくなります。法律上ローンを組むことが禁止されているわけではありませんが、債務整理を行ったという事故情報が記録されますので、審査に落ちやすくなるのです。
少なくとも債務整理後の残債務を完済する必要があり、そこからさらに5年ほど経過することでこの事故情報は削除されます。
そのため一生住宅ローンを組めなくなるわけではありませんが、過去に債務整理を行った金融機関においては内部で管理している顧客データが残っていることで審査には通りにくくなることが予想されます。
家を残しつつ債務整理をする方法
「住宅ローンが残っている状態で債務整理をする=家を失う」の関係は常に成り立つものではありません。工夫次第で家を残すことも可能です。利用する可能性の高い任意整理と個人再生の2パターンについて以下で説明します。
任意整理:住宅ローン以外の借金を対象とする
「任意整理」は裁判所を利用しない「私的整理」の1つです。つまり当事者間の自由な交渉に基づいて債務整理を進めることができ、債務減額を強制させるほどの効力はないものの柔軟な対応ができるという特徴を持ちます。
交渉相手とする債権者についても債務者側が自由に選べるため、住宅ローンを組んでいる金融機関については触れずに任意整理を進めていけば良いのです。
住宅ローン以外についても、今後に影響を与えたくない債務があるときはそれらを除外してその他の債権者と交渉を始めます。
ただし任意整理では大幅な負担軽減は期待できません。通常、利息や支払い方法に関する交渉を進めるのであって「残債務をゼロにする」「残債務を半分にしてもらう」といった要望に応えてもらうのは難しいでしょう。
個人再生:住宅ローン特則を利用する
「個人再生」とは民事再生法に基づく民事再生手続の1種です。裁判所を利用する「法的整理」の1種で、基本的にはすべての債権者を巻き込んで債務の圧縮を図ります。そのためには今後どのようにして完済を目指すのか、その再生計画を立てて裁判所に提示、さらに債権者からの同意も得る必要があります。
原則的な手続は個人が利用するにはやや複雑で条件も厳しいということもあり、特則が設けられています。この個人向けに用意された特則を「個人再生」と呼んでいます。
ただ、個人再生であっても基本的には全債権者を巻き込んでしまいます。そのため住宅ローンが残っているときは結果的に家を失う危険があるのですが、条件を満たせば「住宅ローン特則」の適用を受けて家を残せることもあります。
この特則の適用を受ければ住宅ローンについては除外して個人再生を進めることができ、住宅ローンの残債務はそのまま残り続けるものの、その他の債務については大きく減額することが可能です。
住宅ローン特則について
住宅ローン特則は、民事再生法第10章で規律されている「住宅資金貸付債権に関する特則」のことです。「住宅資金特別条項」などと呼ばれることもあります。
本来、民事再生において特定の債権者だけ特別扱いすることは認められていません。しかし個人にとって家は生活基盤であって、その後生きていくために欠かすことができない重要な存在です。このことを考慮して、例外的に当該特則が法定されています。
しかしながら、住宅ローンであれば当然に特別扱いが認められるわけでもありません。次に紹介する利用条件や注意点は知っておきましょう。
利用条件
住宅ローン特則を使うには次の条件を満たす必要があります。
「住宅資金貸付債権」であること | 「住宅資金貸付債権」とはいわゆる住宅ローンのことであるが、家を建てたり購入したり、リフォームのためにローンを組んで抵当権を設定されていることが前提となる。 住宅ローンとしてではなく、別の借入をするときに家に抵当権を設定したときは、その債務に関して特則を適用させることはできない。 |
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債務者が所有する自宅であること | 個人再生を行う債務者自身が所有し、自分が住まいとして使っている自宅でなければならない。投資目的で購入した物件、事業用の物件、別荘として使う物件などは対象外。 ※居住目的とその他の目的を兼ねているときは、居住用スペースが50%以上であれば良い。 |
住宅ローンを滞納していないこと | 住宅ローンを滞納していると保証会社が債務者に代わり一括弁済(代位弁済)することがある。代位弁済が行われると特則は使えない。 ※代位弁済から6ヶ月以内に個人再生の申し立てをしたときは認められる余地がある。 |
注意点
住宅ローン特則はあくまでローンの返済以外を個人再生の対象とするための仕組みであって、住宅ローンそのものを消滅させる・減額させる仕組みではありません。そのため特則が利用できるということは、残債務を返済する義務がそのまま残るということを意味します。債務整理に強い弁護士など、プロのアドバイスを受けつつしっかりとした返済計画を立てていくことが重要となります。
もう1点、「ペアローン」を組んでいるときはペアで個人再生の申し立てが必要ということにも注意しましょう。夫婦でペアローンを組んでいる方も少なくありませんが、一方の配偶者だけが個人再生をして住宅ローン特則を利用し、他方は何もしない、ということは基本的に認められません。
ただしこれも絶対ではありませんので、弁護士に相談の上、どのように対処していくか検討していきましょう。