契約により発生した権利も、一定期間行使しなければ時効により消滅します。これは民法という法律により定められている「消滅時効」の仕組みによる効力であり、その権利が借金の返済を求める権利であったとしても例外ではありません。
目次
「消滅時効」とは何か
消滅時効は、「権利を債権者が行使せず一定期間経過したとき、その権利を消滅させる制度」のことをいいます。
一般には略して「時効」などと呼ばれることもありますが、法律上は、消滅時効とは逆の「取得時効(一定期間の経過により権利を取得する制度)」の制度もあるため区別する必要があります。
消滅時効という制度がなぜ作られたのかというと、その存在意義については次のような説明がなされています。
- 長期間が経つと証拠も散逸してしまい自分に有利な事実があったとしても証明が難しく、証明が困難となった方を救済して法律関係の安定を図るため。
- 権利が行使できるにもかかわらずこれをいつまでも放置している者は保護するに値しないため。
例として、数十年以上前に借金をした場合を考えてみましょう。その借金について完済をしたあと、何十年も返済の記録を残し続けるのは現実的ではありません。証拠として使える書類やデータがなくなってしまうことも十分に考えられます。
もし、何十年も経ってから相手方が「あのときの借金を返してください」と請求をしてきた場合、「返しました」と証明するのは困難でしょう。
しかし消滅時効の制度があれば、本当に返済したかどうかを問わず、その権利の消滅について主張することで返済を免れることができるのです。
借金についての消滅時効のルール
借金に関する権利はいつ時効により消滅するのか、また、どのようにして消滅させられるのか、基本的なルールを押さえておきましょう。2020年4月からは改正民法が施行されており消滅時効に関するルールも変わっていますので、借金をしたタイミングについても重要になってきます。
返済期日から5年の経過で時効消滅
債権の消滅時効については、民法に次の規定が置かれています。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
つまり、「権利が行使できることについて債権者が認識したときから5年(①)」が経つと時効消滅となりますし、もし債権者が認識しないままであったとしても「権利の行使が可能になってから10年(②)」が経つとやはり時効消滅となります。
これは借金に限らず債権一般に適用されるルールです。債権の内容が借金の請求権であるときは、貸し手がその権利について認識していない状況は通常考えにくいため、①の5年間が消滅時効期間ということになるでしょう。
なお、消滅時効について考えるときは“いつから”という点が重要になります。そして借金についての債権者が請求権を行使できるのは返済期日からですので、「返済期日から5年間」の経過で時効消滅することになります。
毎月の返済を続けていた場合なら「最後の返済日から5年間」、返済期日を決めていない場合なら「借金をした日から5年間」で時効消滅です。
2020年3月以前の個人間の借金は10年で時効消滅
前項で説明したルールは、民法改正がなされた2020年4月以降に発生した債権に適用されます。
それ以前は旧民法の規定に従う必要があるのですが、消費者金融を利用した場合など相手方が事業としてお金の貸し借りを行っている場合には変わらず5年間の消滅時効期間に係ります。
一方で、個人間でのお金の貸し借りや、信用金庫などから借入をしたときは、10年間が消滅時効期間となりますので注意してください。
消滅時効期間を過ぎたときは「時効の援用」をする
法律で定められた期間が過ぎても、自動的で強制的に権利が消滅するわけではありません。
時効による権利消滅を、債務者の方が主張する必要があるのです。その行為を「時効の援用」と呼んでいます。
なお、時効の援用は公的な手続きではありませんし、特別な手順を踏む必要もありません。とにかく重要なのは相手方に「消滅時効の期間を過ぎたから、その権利は消滅しました。」と意思表示をすることです。
ただし援用の有無をめぐってトラブルが起こる危険性もありますので、証拠を残すためにも内容証明郵便を利用するなど、形に残るように援用の意思表示を行うべきです。
時効期間のリセットや完成猶予に注意
基本的には5年間という期間で消滅時効が完成しますが、債権者側の行為・債務者側の行為によって、せっかく進行した期間がリセットされることがあります。また、時効の完成を一時的に妨げられるケースもあります。
前者を「時効の更新」、後者を「時効の完成猶予」と呼びます。
例えば、次のようなケースでは時効の更新が起こり、その時点から再び5年が経過しないと時効は完成しなくなります。
- 借金の返済義務について債務者が認めた(「承認」という。)
- 借金の返済義務について裁判で争い、裁判にて存在することが確定した
- 支払督促や強制執行等の手続きを終えて権利が確定した
一方、次のようなケースでは時効の完成猶予が起こり、一定期間は時効が完成しなくなります。
- 大きな災害の被害を受けて請求のための手続きが進められない場合
- 「借金の返済義務に関する協議」を行うことについて書面で合意が取れた場合(1年間の猶予)
- 借金の返済義務に関する訴訟の提起や調停の申し立てを行い、裁判所での手続き中である場合
- 債権者による仮差押え・仮処分がなされた場合(6ヶ月の猶予)
- 債権者が借金の返済について催告を行った場合(6ヶ月の猶予)
債権者から催告を受けるなど、消滅時効が完成するまでの期間中にこれらの手続きが行われる可能性は高いです。債務者の方が特に注意すべきは「承認」による時効の更新で、安易に債務の存在について認めるような言動を行うべきではありません。
借金の一部を返済するだけでも承認したと評価されますし、債務者の行動により時効期間に大きな影響が及ぶ可能性も十分に考えられます。適切な対応を取るには法律の知識も必要となりますので、債権者への対処に困っているときは弁護士にも相談することをおすすめします。