個人再生を申し立てて再生計画が認められると、債務総額を大幅に圧縮できます。しかしながらその後の返済がうまくいかないと債務は復活してしまい、破産せざるを得ない事態に追い込まれる危険性もあります。
他方で返済計画の延長を求められるケースもありますし、場合によっては残額を免責(ハードシップ免責)してもらえるケースもあります。
こうした「再生計画が上手くいかなかった場合どうなるのか」という点について当記事では解説します。
目次
返済を怠ると再生計画が取り消される
個人再生について規律している民事再生法では、以下の通り規定しています。
再生計画認可の決定が確定した場合において、次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、裁判所は、再生債権者の申立てにより、再生計画取消しの決定をすることができる。
「再生計画が不正に成立していた」「債務者が再生計画の履行を怠った」などの事由があるとき、再生計画を取り消されることがあるのです。
※ただし再生計画の履行を怠ったことを理由に申立ができる債権者は、再生債権のうち1/10以上を持つ債権者に限られる。
そして裁判所により再生計画取り消しの決定がなされると、再生計画により減額されていた債権は復活してしまいます。しかも延滞利息の分も加算されることとなり、せっかく進めた個人再生の手続も意味をなさなくなってしまいます。
その結果、再建が事実上不可能となることもあるでしょう。裁判所が支払不能を認めたときは、そのまま職権により「破産手続開始決定」が行われるケースもあります。
住宅ローン特則の効果もなくなる
個人再生が上手くいかず破産手続が開始される場合、債務者にとっての問題は「自宅を失うこと」にあります。
個人再生の良いところは、破産まで行わずに大幅な債務圧縮が図れることにあり、さらに住宅ローン特則によって自宅についてはそのまま残せるところにあります(住宅ローンの支払いだけは特別扱いし、支払いを継続することを認める特例)。
しかし再生計画通りに返済ができず破産手続開始決定が出てしまうと、住宅ローン特則の効力もなくなり、自宅を維持することはできなくなってしまいます。
再生計画を守れないときは延長を求める
もし再生計画を守れそうにないとき、何もせず諦めるのではなく、まずは「延長を求める申し立て」を検討しましょう。
再生計画では通常3年の返済期間(最大5年の返済期間)を設定しますが、申し立てによって2年間延長してもらえるケースがあります。
- 返済期間3年 → 5年間へ
- 返済期間5年 → 7年間へ
ただし、延長の申し立てが認められるには「やむを得ない事情により計画の遂行が著しく困難になった」と評価されないといけません。例えば勤務先が倒産してしまった、難病にかかってしまった、大災害の被害を受けた、などの債務者に責任が認められないような事情が必要です。
少額なら免責の可能性もある(ハードシップ免責)
上記の延長申し立ての要件も満たせず困っているときは、最後に「ハードシップ免責」の適用を検討してください。
これは「ほとんど再生計画通りに返済を続けることができたが、あと少しというところで返済が難しくなってしまった」という場合の、残額に対する免責を意味します。
民事再生法でも以下の通り規定しています。
再生債務者がその責めに帰することができない事由により再生計画を遂行することが極めて困難となり、かつ、次の各号のいずれにも該当する場合には、裁判所は、再生債務者の申立てにより、免責の決定をすることができる。
そしてハードシップ免責の要件は次のように整理できます。
ハードシップ免責の要件 | |
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債務者に責任がない事由によって再生計画の遂行が極めて困難となった | 債務者のコントロールがきかないような事情に限られる。 一時的な収入の減少だと認められにくい。また恒常的な収入減があったとしても生活状況を改めるなど支出状況の改善を図る余地があるのならやはり認められにくい。 |
各債権について3/4以上の返済を終えている | 返済が進んでいるということの疎明が必要であるため、返済状況を一覧にした表などを作成し、これを裁判所に提出しないといけない。 |
免責決定をすることが債権者一般の利益に反するものではない | 再生計画が認められたときの清算価値(破産をして資産を売却したときに回収できる合計金額)以上が返済済みであることが求められる。 例)再生計画後の返済総額が300万円の場合、225万円以上が返済済みであれば「3/4」の要件を満たす。しかし資産の清算価値が250万円であったのなら、250万円以上が返済済みでなければいけない。 |
再生計画の変更が極めて困難である | 再生計画の変更により対処できる状況なら免責ではなくまず計画の見直しを行うべき。そのため再生計画の変更による支払いの継続が極めて困難な場合に限られる。 |
この要件を満たすのは簡単なことではありません。ハードシップ免責の適用を受けられる場面はかなり限定的であると認識しておきましょう。
なお、ハードシップ免責によって残債務の支払いを免れることができますが、住宅ローン特則の適用を受けている場合、住宅ローンには免責の効果が及びません。住宅ローンの返済はこれまで通り継続しないといけません。
ハードシップ免責の手続
ハードシップ免責を求める場合は、個人再生手続を行った裁判所に申し立てをしましょう。
その際、申立書とともに、返済ができなくなったことなどを示す証明書類も提出します。費用に関しては、申立手数料と官報公告費用に数千円がかかる程度です。
ハードシップ免責を受けることの影響
ハードシップ免責を受けることで債務者の負担はなくなりその後生活を持ち直すことができるでしょう。
しかし制度上の制約がかかりますので、数年以内に再度債務整理を行う場合は要注意です。
例えば、「ハードシップ免責が確定したときから7年以内は給与所得者等再生手続(個人再生の1種)の申し立てができない」「ハードシップ免責が確定したときから7年以内であるという事実は自己破産における免責不許可事由に該当する」といった影響があります。
免責を受けるということは、債権者に負担を押し付けることを意味していますので、何度も債務者だけを救済するわけにはいかないのです。そのためこのような制約もかけられています。