長年借金の返済をしている場合、「過払い金」が発生している可能性があります。しかし自分で計算して過払い金を正しく把握することは難しいですし、過払い金の存在が発覚したとしても請求の方法がわからなければこれを回収することはできません。
そこで、この記事では過払い金の請求について、全体の流れや手続内容について解説していきます。「もしかしたら払い過ぎたお金があるかもしれない」と感じている方はぜひ参考にしてください。
過払い金請求を直接交渉で実行する場合の流れ
過払い金を請求する一般的な流れは以下の通りです。
目次
事案に応じて細かな手続内容は異なりますが、基本的にはこの流れに沿って進むこととなります。
弁護士への相談と委任契約の締結
過払い金の請求は弁護士などの専門家に依頼して行うのが一般的です。
自分で計算から請求まで行うことも可能ですが、正しく計算するのが難しい、相手方が応じてくれにくい、といった課題があることからここでも専門家に依頼するケースを想定して説明していきます。
まずは、過払い金に関するヒアリングを行い、状況の説明をすることになります。
第一に、依頼主の目的を整理し、「返ってくる過払い金の金額を知りたい」「過払い金請求によって借金を減らしたい」「自分が過払い金の請求ができる状態なのかどうか知りたい」といった目的に沿った計画を立てていきます。
相談を通して、その弁護士への依頼に納得ができた場合には委任契約を締結します。
「過払い金請求委任契約」などと個別の名称がつけられていることもありますが、要は、請求に係る事務を任せるために正式な約束を結ぶということです。この契約を結ぶことにより、依頼者はクレジットカード会社や消費者金融などと直接の交渉を行う必要はなくなります。
このことは、単に手間がかからなくなるだけでなく、精神的な負担を減らすためにも有効であると言えるでしょう。
債権者への受任通知送付で取立を止める
弁護士と委任契約を締結し、過払い金請求を受任してもらえたなら、その旨を債権者に伝えます(受任通知書の送付)。
取引履歴の開示請求と利息の引き直し計算
受任通知書の送付と併せて行われることも多いのですが、借り入れの金額やこれまでの返済額などを正しく把握するため、「取引履歴の開示請求」をします。
受任通知の到達から2週間~1ヶ月ほどで取引履歴書が届くでしょう。その内容を参照しつつ、借金の利息を再計算します。
「引き直し計算」という、利息制限法に基づき、過剰に払っていた金利分を調べ直すことになります。
債権者との直接交渉による返還請求
引き直し計算によって過払い金の有無が正確にわかります。
そして、過払い金があると分かったのであれば、弁護士が債権者と直接交渉をし、返還請求を行い、返還の金額および時期を協議していきます。
そして双方の合意が取れれば、その合意内容に従った支払いがなされます。
過払い金請求を自分でする場合に注意すべきこと
上述の通り、過払い金請求は自分ですることも可能です。これにより弁護士などに依頼する費用が発生しなくなります。
ただこの場合、以下の点に注意が必要です。
- 引き直し計算を間違えないようにする
- 返済に応じてくれない可能性がある
- 請求までの手続きに時間や手間がかかる
- 手続き中の返済や取立をストップできない
- 不用意に和解案に同意しない
法律に準拠して正しく計算するのは慣れていないと難しいですし、計算だけでも専門家に依頼をすべきでしょう。
また、弁護士の後ろ盾がないことにより債権者がまともに対応してくれないリスクも認識しておくべきです。逆に、債務者側の無知を利用して、債務者にとって不利な和解案を提示してくる可能性もあります。例えば互いの債権を帳消しにしようといった和解は一見債務者にとっても悪くない案のように見えますが、過払い金額によっては損をすることもあります。
正しい知識を持っていなければ相手方の主張に対して適切な対応をしていくことが難しくなりますので、慎重になる必要があります。
過払い金請求を裁判上で実行する場合の手続き
通常は、上の通り当事者間でやり取りをしつつ請求の手続きを進めることになります。
しかし、過払い金の存在が確認できるにもかかわらず、返還に応じてくれない債権者もいます。
この場合には裁判所を利用して、正式にその権利を認めてもらうことが有効です。
裁判を行う場合、より手続が大変になりますし、費用や時間もかかります。しかしながら、過払い金の元本を全て、利息も含めて全額回収できるなど、より多くのお金を取り戻せる可能性があります。
過払い金請求訴訟の提起
裁判を行う場合、まずは証拠説明書や準備書面などを作成し、これを裁判所に提出しなければなりません。
引き直し計算の結果、過払い金が140万円以下とわかった場合には簡易裁判所に訴訟を提起。140万円を超える場合には地方裁判所に訴訟を提起します。
なお、複数の債権者に対して返還請求することもありますが、このときにはまとめて1つの訴訟として提起することもできます。
提起の方式ですが、訴状の作成・提出が必要ですので、訴状に収入印紙および郵便切手を添付しましょう。印紙税額は訴額によって異なります。郵便切手代は必要枚数に応じて変動しますが、あまり大きなコストではないためそれほど気にする必要はないでしょう。具体的な金額を知りたい方は、提起しようとしている裁判所に問い合わせましょう。
※専属的合意管轄裁判所がある場合には提起できる裁判所が限られる
裁判所の管轄区域を調べたい方はこちらの裁判所ホームページを参考にすると良いでしょう。
裁判所HP「裁判所の管轄区域」
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html
裁判所での審理
裁判所に訴状を提出後、第1回口頭弁論の期日が指定されます。訴状の提出から約1か月以内に期日が指定されることが多いです。結論が出るまで月1回ほどのペースで第2回、第3回と審理が続いていきます。
ただ、訴訟が提起されるとすぐに和解を求めてくるケースも多いです。その場合にはすぐに解決できるでしょう。
これに対し被告が一切の譲歩をしないときには紛争が長期化し、半年から1年ほどかかることもあります。
判決または和解
和解で落ち着くか、主張立証が尽くされて審理が終結すれば、裁判所により判決がなされます。
判決は被告に送達されてから2週間の経過によりその法的効力が確定します。
逆にいうと、この期間内は控訴が可能であり、被告が判決の内容に納得がいかない場合には控訴審へと進む可能性があります。
過払い金を回収する
判決の確定後、その内容に応じて支払いをしてくれることがほとんどです。
しかし場合によってはそれでも支払いを拒絶する債権者がいます。この場合には強制執行の手続きも執らなければなりません。
過払い金請求に強い法律事務所への依頼が大切
以上の流れを見て分かるように、過払い金の請求は弁護士などのプロに任せたほうが良いです。すぐに返還に応じてくれる債権者であれば独力で対応してもなんとかなりますが、そうでない場合には非常に難易度が上がってしまいます。
自分一人で業者との交渉をしなければなりませんし、場合によっては訴訟の提起から口頭弁論への対応などもすることになります。適切に訴訟遂行できないことによって本来請求できるはずの過払い金も回収できなくなるおそれがあります。
そこで、過払い金の計算など、早い段階で法律事務所に相談をしておくことがおすすめされます。