「特定調停」とは、債務整理の一手法として裁判所が関与する公的な手続きです。返済が困難になりつつある債務者の経済的再生を目的とした手続であり、借金などに困っている方は解決策の1つに特定調停についても視野に入れて検討を進めると良いでしょう。その検討にあたって役立つ情報、特定調停の概要やメリット・デメリットをここにまとめました。
目次
特定調停の概要
特定調停は、簡易裁判所で行われる手続きで、債務者が申立人、債権者を相手方として行います。
調停委員が両者の間に立ち、返済条件の変更などについて次のように協議を進めることとなります。
《 特定調停の基本的な流れ 》
- 債務者による申立て
- 事情聴取期日の実施
- 調整期日の実施
- 調停の成立(または不成立)
申立ては簡易裁判所に対して行い、必要書類とともに手数料を納付します。その後、事情聴取期日で債務者の状況を確認し、調整期日で債権者との交渉が行われます。
特定調停のメリット
特定調停のメリットは以下に示すとおりです。ほかの債務整理とも比較しながら説明していきます。
比較的低コストで実施できる
特定調停は、他の債務整理手法と比較して費用面での優位性があると評価できます。
手続きの種類 | 費用の内訳 | 備考 |
---|---|---|
特定調停 | 申立手数料 | 申立手数料は債務総額に応じて決定 |
任意整理 | 弁護士費用 | 債務額や案件の複雑さにより変動 |
個人再生 | 予納金+弁護士費用 | 予納金は数十万円程度が一般的 |
自己破産 | 予納金+弁護士費用 | 予納金は数十万円程度が一般的 |
特定調停は、比較的専門家に依頼しなくても自身で手続きを進めやすいという特徴もあるため、このような差が生まれています。
財産の処分が不要
特定調停では債務者自らの財産を処分する必要がありません。これは大きなメリットといえるでしょう。
- 自己破産の場合・・・原則として全財産が処分対象。
- 個人再生の場合・・・処分対象とならない財産もあるが、一定額以上の財産について処分が求められることもある。
- 任意整理・・・財産処分は基本的に不要だが、債権者との交渉次第でもある。
- 特定調停・・・財産の処分は不要。
そのため、住宅ローンがある持ち家や事業用資産を所有している場合でも、それらを手放すことなく債務整理を進められる可能性が高くなります。
裁判所が関与するため安心感がある
特定調停は裁判所が関与する手続きであり公的な手続きでもあるため、債権者との交渉において一定の信頼性が確保されます。
個人再生や自己破産も特定調停と同じく裁判所が関与しますが、比較的性質の近い任意整理では当事者間のみで解決を図るのが基本です。
純粋に当事者間だけで対処しようとすると、債権者が応じてくれないこともあるのですが、特定調停であれば債権者側も真摯に交渉に応じる可能性が高まると期待できます。
特定調停のデメリット
ここまでで紹介したように特定調停にはいくつかのメリットがありますが、実際のところ債務整理の手段としてそれほど利用はされていません。
その理由は以下に示す特定調停のデメリットにあります。
債権者の同意が必要
特定調停では、債務者が提案する返済条件に対する債権者の同意が必要です。公的な手続きとはいえ相手方の納得がなければ和解を成立させられないのです。
- 任意整理の場合・・・特定調停同様に債権者の同意が必要とされる。
- 個人再生の場合・・・裁判所の認可があれば全債権者の同意までは不要。
- 自己破産の場合・・・債権者の同意は不要。
特定調停は、任意整理と同様に債権者との合意形成が不可欠であり、すべての債権者が同意しない場合、調停は不成立となってしまいます。
※年間の申立件数およそ 2,000件に対し和解が成立する割合は 1,2割程度とされている。
調停成立後の返済ができない場合のリスク
特定調停で合意した返済計画を履行できない場合、再び借金問題に直面することになります。さらにこの場合は、強制執行や信用情報に関わる大きなリスクを伴います。
なお、このリスクは任意整理や個人再生においても存在します。
- 任意整理の場合・・・同様に履行義務あり。
- 個人再生の場合・・・再生計画が履行できないときには破産手続きへ移行する可能性もある。
- 自己破産・・・免責後は新たな債務のみが問題となる。
返済計画を遵守できない場合は法的措置を取られる可能性もあるため、返済計画については慎重に検討する必要があるでしょう。
信用情報機関への登録
特定調停を利用すると、その情報が信用情報機関に登録されるため、一定期間、新たな借り入れやクレジットカードの利用に制限がかかることがあります。
※いわゆる「ブラックリスト」入りすることを意味する。
※ほかの債務整理でも同様の問題。
これらのデメリットを踏まえ、自身の状況や将来設計に応じて適切な債務整理手法を選択することが重要です。相手方との交渉も発生する問題ですので、債務整理に強い弁護士とも相談しながらご自身にもっとも適した方法を模索しましょう。